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既存客の消費動機を知る

勝負ごとにおいて「負けた相手に勝つ」ためには敗因の分析が重要だけれども、同じタイプの相手に勝ったことがあるのであれば、勝因の分析も忘れてはいけない。
何故勝てたのかが解らなければ次は負けるかも知れないし、ましてやまだ勝ったことのない同種の相手を負かす方法など、考えつくはずもない。
ボウリング場のマーケティングにおいても同様で、例えば「ファミリー客層を増やそう」と考えるのであれば、現在来店しているファミリー客層が「何故うちのボウリング場を選んだのか」を知らなければ有効な集客策は生まれない。
来店動機についての考察も無しにリニューアルしたり集客企画を立てたりすると、新規客を獲得しても既存客を失うような事態を招いてしまうリスクだってあるのだ。

来店動機の仮説を比較的立てやすいのは、ホビー客層と団体客層だろう。
それ以外の客層が難しい。
今から十数年前に愛知県に転勤してきて店舗を任された頃、ホビー客層や団体客層以外の「その他」(いわゆる一般客層)の来店動機を考えても、なかなか自分が納得できる仮説を考えつかなかった。
それでも、恐ろしいくらいに一般客層の少ない店舗だったので、一般客層の来店動機を作らなければならないと焦っていた。
考え続けた結果、貸靴を借りたりレーン使用を申し込んだりという、ボウリング場で余暇消費するための手続きの煩雑さと、「お金がいくらかかるのか解らない」というボウリング場での消費行動経験不足からくる経済的不安感が重なって心理的な距離感となっており、加えて、任されたボウリング場が116レーンという巨大なもの(のちにギネス世界記録に公認される)だったので、施設の規模が与える圧倒的な物理的距離感、これらが合わさって消費ハザードとなっているのではないかという仮説を考えた。
物理的な距離感解消には巨額の投資が必要なので、支配人レベルではどうしようもない。
(のちにオーナーが代わった時にエレベーターを設置するなど、いくぶんかの解消はできた)
「いくらかかるのか解らないと消費者は不安に思っているのだ」という仮説に従い、「ボウリング2ゲームと貸靴でお一人様○○○○円」というパッケージを考えたが、訴求力を高めるためには「無料」という文言が必要だと思い、「貸靴無料券付 ボウリング2ゲーム○○○○円」というクーポンにしてポスティングを始めた。
余剰人員のいない店舗なので、支配人である自分だけで1日100~200枚程度を町内ごとに戸別投函して廻った。
全体で2~3%のクーポン利用率だったので支配人会議では「時間の無駄」という批判も受けたけれど、試行錯誤の結果で費用対効果の高い設定価格を掴み、ポスティングの効果測定から利用率の高い商圏分布も把握できたので、新聞折込広告を使って20万世帯ぐらいにクーポンを配布した。
これが見事に当たり、業績を急伸することができた。
以後、この店舗では支配人が交代した後もずっと定期的な新聞折込広告を続けていたけれど、精緻な商圏再調査やクーポン内容の再考察がなされず、「先輩の模倣」として形骸化したまま続けられた結果、新聞折込という広告運搬媒体の陳腐化もあって、費用対効果が徐々に悪化し廃止された。

ともあれ、最近来店してボウリングをしてくれた一般客(ボウリングを趣味としているホビー客でもなく、会社の行事としてしぶしぶ付き合っている団体客でもない人たち)が、なぜ来店してくれたのかも解らずに、「一般客層を増やす」などという目標を立てるのであれば、消費動機の仮説と商業実験によるデータを根拠にある程度大きな予算を使って集客策を実施し、失敗したら責任を取るぐらいの度胸のある人材が、ボウリング業界には不足しているのではないかとロートルは思うのであります。

Published in ボウリング業界 経験論